組織というのは個々の人が集まって構成されているものですが、一旦、人が集団となった場合には、あたかも一つの生き物のように動き出し、個人をマネジメントするのとはまた違った難しさがあります。
ビジネスマネジャーとして組織を上手くマネジメントするためには、如何に組織をデザインするか、デザインした組織を如何に上手く運営するかが重要となります。
個々の人が与えられた持ち場で一生懸命働いて努力していても、組織全体の目標・方向性・組織形態・個々の責任・役割の分担が適切に考えられていなければ、組織として上手く機能せず力を発揮できません。
個人の個々の力でいえば、1+1=2ではなく、1.5や1になってしまうことが往々にしてあります。
組織マネジメントの失敗から一旦組織として上手く機能しなくなると組織内には混乱や無駄が多く生まれ、個人のやる気・モチベーションは低下し、生き物としての組織は死んでしまいます。
個人の力を1+1=3にするように組織として力を発揮するため、また組織全体が同じ目標に向かって自律的に前進していくようにするため、ここでは組織デザイン・組織づくりとはどうあるべきか、組織マネジメントのあり方について説明していきます。
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ビジネスを成功に導く組織づくりの3原則とは?
組織のマネジメントを考える時、個人の力を結集し組織として力を最大化し、組織全体が一丸となって目標に向かい自律的に前進していくようにするための組織づくり・組織デザインに取り組む前提として、3つの重要なポイントがあります。
原則その1:人材に基づいて組織形態を決める
組織のマネジメントでは、組織構成員の個々の能力に合わせて、能力・長所を活かし短所をカバーし合うという点から組織構造を考えます。
大事なことは、組織の形態・構造のあるべき姿があって、それに人をはめ込むのではないという点です。
組織のマネジメントでは、組織の目標・目的を明確にした上で、この目標・目的ごとに、組織のまとまり・組織単位・組織の境界線を検討し、組織単位を構成すべきです。
複数の目標・目的が同一組織内に混在していたのでは組織は上手く機能しません。
また、組織構造はできるだけフラットにする、複雑な階層構造にしないという視点も重要です。
そして、組織の構成・組織内での個々の責任・役割の分担は、個人の能力・長所を活かすものでなければなりません。
(ケーススタディ:アメリカン・フットボールの監督の場合)
アメリカン・フットボールは11人のプレイヤーが攻撃と守備に分かれ、相手陣地にボールを持ち込んで得点するスポーツです。
直接、身体でコンタクトすることが許され、如何に組織的に攻撃を前進させられるか、また、如何に組織的に敵の前進を食い止めるように守備をするか、非常に戦略的なスポーツであると言われています。
攻撃については、ランニングでボールを進めるか、パスでボールを進めるか、様々な攻撃のフォーメーションと攻撃方法があり、またこれに対する守備も様々な守備フォーメーションと守備の仕方があります。
アメリカン・フットボールの監督(ヘッドコーチ)は、この様々なフォーメーションの中から勝つために最良のものを選択しなければなりません。
このアメリカン・フットボールで名将と言われ成功している監督の共通する特長は、自分のチームにどういう能力を持った人材がいるか、自分のチームのプレイヤーの長所・能力をよく把握し、これを最大限活かす、ということに基づいて攻撃、または守備のフォーメーションや方法を選択することだと言われています。
反対に、よく失敗する例としては、「最近、あるチームがショットガンという新しいパスの攻撃フォーメーションと攻撃方法を開発して成功している。この攻撃フォーメーションと方法は画期的だ。自分のチームも是非これを使おう。」と、まずショットガンという攻撃フォーメーション・方法ありきで、これに自分のチームのプレイヤーをはめ込むという場合です。
自分のチームの選手をこの攻撃フォーメーションにはめ込んでみても、パスの能力が高いパサー(クォーターバック)とパスをキャッチするのに優れたレシーバーがいなければ組織として攻撃は上手く機能しません。
これはビジネスの世界にも言えることで、組織のマネジメントにおいて組織内にどういう能力を持った人材がいるか組織メンバーの長所・短所などをよく考えずに、組織形態としてはこうあるべき、仕事のやり方はこうすべき、ということから、そこに人をはめ込む組織デザインでは個々の能力を活かして組織としての力を最大化することができません。
他に、プロサッカーのケースでも「優秀な監督とは自分の戦略を選手に押し付けるのではなく、選手の能力に合わせて戦略・戦術を建てることができる人」と言われています。
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原則その2:組織の目標・目的(Mission)を明確にする
組織のマネジメントにおいて、組織メンバー個々の力を結集して組織として最大の成果を出すためには、組織の目標・目的を明確にすることが重要になります。
営利企業の具体的な唯一の事業目標は、目標売上・利益の達成であり、理想的には一つの組織で、一人のマネジャーのもとで営業・製造・開発・経理など事業に必要な役割を全て果たして、この目標を達成することが最も明確で分かり易いものとなります。
管理スパンと組織内の役割分担
組織のマネジメントにおいて、組織が大きくなり、メンバーの人数が増えると一人のマネジャーが全てをマネジメントすることは困難となり、ある程度役割分担をして、各役割について専任のマネジャーを置く必要が生じます。
「管理スパン」と呼ばれ、一人のマネジャーがマネージできる人数は8人から10人くらいが適切とされています。
組織のマネジメントにおいて、組織を役割ごとに分割し、専任のマネジャーを置いて、組織を上手く運営するためには各組織の具体的な目標・目的を明確で分かりやすくする必要があります。
言い方を変えると、各組織の目標がシンプルで明確になるように組織を分割すべきなのです。
組織のマネジメントにおいて、一つの組織で人数が増えて分割する必要が出てきたときに、色々な役割がそれぞれ複雑に絡み合っているはずですから、こういう分割の方法が正しいというものはないはずです。
例えば、何かの商品を工場で製造する場合を考えても、製品設計・製品製造・製造工程の設計・製品の品質管理など、各々の役割が複雑に絡み合っています。
商品によっては、製品の設計において、同時に製品の製造工程を設計しなければならず、製品設計・製造工程の設計を同じ部署で行う場合もあるでしょう。
逆に、製造工程の設計は製造のメンバーの能力に大きく影響されることから、製造・工程設計を同じ部署で行う場合もあるはずです。
組織構成のガイドライン
組織のマネジメントにおいて、組織をどのような部署に分割すべきかの一つのガイドラインは、できるだけ同じ目標・目的(Mission)を持った個人またはグループをまとめて一つの組織にする、ということです。
メンバー全員に各人の目指す目標、仕事として果たすべき目的が明確で、かつ、同一である組織は個人の力を結集して、組織として最大の結果を引き出すことが容易になります。
逆に、仕事のやり方、プロセス、職能が似ているなどの理由があり、目標・目的(Mission)が違うのに、同一の組織となっている場合など、同一の目標を共有できない場合は、組織として混乱してしまい、メンバーの力を結集できません。
組織マネジメントの一つの例として、「機械設計」という部署があるとします。
この部署は機械設計という共通するスキル・職能から一つの部署にまとめられています。
しかし、各々のメンバーが行っている仕事は、製品の機械部分を設計する人もいれば、製造工程の機械部分の設計をしている人、完成製品の運送機械を設計している人が一緒に働いているという状況です。
この部署で働いている人達のビジネスに直接貢献する具体的目標・目的は何かを考える時、共通のものとして導き出すのは困難であると言えます。
「優れた機械設計をする。」「機械設計の能力・レベルを向上する。」などが考えられる共通の目標として導き出されるでしょうか。
目標売上・利益を達成するために、ビジネスに直接貢献する具体的に各人が持つべき目標は、これらのものではなく、製品設計としては、「目標性能の製品を設計し、できるだけ早く製品化する(市場に導入する)。」
製造工程の設計としては、「品質の高い製品を低コストで製造する。」という目標が考えられます。
これは企業によくある例ですが、本来ビジネス全体から求められる目標が「目標性能の製品を設計して、できるだけ早く製品化する(市場に導入する)。」であるべきなのに、組織デザインが不適切で共有される目標が「優れた機械設計をする。」になってしまうと目指すべきベクトルが部署ごとにバラバラにずれてしまい組織全体として力を発揮できません。
原則その3:組織構造をフラットにする
組織のマネジメントにおいて、組織づくりの重要な一つのポイントは、如何に意思決定を早くするか、組織内の意思決定を方向性の統一したものにするか、ということにあります。
組織内での意思決定が多くのマネジャーの合意を得ないと為されない、または、係長→課長→部長とハンコの持ち回りで各階層のマネジャーの了解を得ないと意思決定ができないようでは、組織の仕事の効率が悪く組織の活力は失われてしまいます。
また、「船頭多くして船山に上る」の格言にもあるように、階層の違う多くのマネジャーが意思決定に含まれていたのでは、それぞれのマネジャーの考え方が少しずつ違い、組織としての活動の方向性が本来行くべき方向とは違った方向へ向かってしまう恐れがあります。
会議は少なく、会議時間は短く、書類は少なく
組織のマネジメントにおいて、係、課、部など組織の階層を多くして各階層におけるマネジャー(管理職)が多くなると、これらのマネジャーの意思統一をするだけでも月に何回会議をしなければならないかわかりません。
このような意思の統一で会議に多くの時間を消耗している企業も多いのではないでしょうか?
会議は少なく、会議時間は短く、書類は少なく、早く統一した意思決定を行う組織的なしくみを考えた場合、組織をできるだけフラットにするということは、できるだけ組織構造として、係、課、部、事業部などの階層を少なくするということです。
また、一つの課など同じ組織内においてもできるだけ人の役割・立場を並列にして、上下の立場を作らないということです。
組織の運用には、純粋に仕事の運営としてこういう役割・立場にすべきということ以外に様々な影響要因があります。
各人の経験年数、役職、資格、各人のモチベーションを高めるための昇給など、純粋な仕事の運営とは別の要因が組織づくりに影響します。
このような要因を作る必要のない組織をマネジャーの頭数に合わせて作るとか、同じ組織の中にも立場・役割に上下関係を作って複雑にすると、本来トップ・マネジメントが期待している方向とは違う意思決定が為され、しかもその期待外れの意思決定は期待外れに時間がかかってしまうことになりえます。
すなわち、マネジャーが組織を思うようにマネジメントできなくなることに繋がるのです。
複線人事
組織のマネジメントにおいて、古い日本的企業では、今も社員の資格・階級=役職となっている企業もあるようです。
例えば、ある人は20年企業に勤めていて年功序列で課長だから課という組織の長にならなければならない、部下を持って仕事をする課の長という役職と給与が連動しているという場合です。
管理職というのは、営業、経理などと同じように一つの職能であり、「あの人は営業担当としては非常に優秀で高い給与を貰うに値するが、管理職としては向かない。」ということは多々あるはずです。
従業員の資格・給与は、組織の長(人の管理者としての役職)としてレベルアップできるだけでなく、従業員の持っている専門性・担当者としてでも企業として大きな価値のあるスキルによってレベルアップできるようにあるべきです。
このような人事制度のしくみをつくることが必要であり、このようなレベルアップの制度は「複線人事」と呼ばれています。
不必要な上下関係の意識を無くす
また、組織構造だけでなく、組織文化、人の意識としての役割・役職の上下、上下関係の意識を無くすことが重要です。
組織のマネジメントにおいては、不必要な上下関係の意識なく前向きな提案・問題解決が管理職と部下との間で為されることが組織活性化に繋がり、時によっては自由に社員が社長に意見するなど、階層を飛び越したコミュニケーションが必要です。
未だに社内で人の名前を呼ぶときに「〇〇部長」とか「△△課長」などと役職名をつけている企業は時代遅れと言わざるを得ません。
まとめ
今回は、組織のマネジメントにおいて、ビジネスを成功に導く組織をつくるためには3つの原則があり、それらは「人材に基づいて組織形態を決める」「組織の目標・目的(Mission)を明確にする」「組織構造をフラットにする」であることを明らかにし、それぞれについて解説しました。
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