自動車大手10社の3年間の財務データを元にポジショニング分析した結果見えてきたものは?

投資

日経225銘柄・自動車大手10社の3年間の推移で何がわかる?

前回は、平成29年度(単年度)のポジショニングマップを示しました。

これでも、収益力がより高い銘柄を選べば良さそうな気がしますが、時系列の変化を見ることができれば、数年に亘り、各銘柄の業績がどのように推移してきたのかを理解することができます。

それによって、業績がより良くなっているのか、またはその逆なのか、それほど変わっていないのか、を自ら見て判断することが可能となります。

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自動車大手10社の3年にわたる業績推移!その結果は?

自動車大手10社を分析する指標は8つ(ROA、ROE、売上高営業利益率、総資産回転率、自己資本比率、売上高成長率、キャッシュフローマージン、フリーキャッシュフロー)です。

8つの指標を選んだ理由については、前回ブログ(自動車大手10社の財務データをポジショニング分析した結果見えてきたものは?)で説明していますので、そちらを参考にしてください。

そして、今回分析の対象期間は、平成27年度、平成28年度、平成29年度です。

ヤマハのみ12月決算で、他の9社は3月決算です。

自動車大手10社の各年度の8つの指標に対して、マーケティング分析手法の一つである因子分析を実行し、3期分の因子得点を求め、その3期分の因子得点を同一のポジショニングマップ上に示しました。

青いは平成27年度、黄色いは平成28年度、赤いは平成29年度を示しています。
ざっくりと見ても、年度が変わると、各銘柄の業績変化によってその位置取りが変わってきているのがよくわかります。

ただ、この図だけですと、ごちゃごちゃして判りづらいので、改めて各銘柄ごとに結果を紹介します。

各銘柄ごとのポジショニングマップの位置取りの変化は?

自動車大手10社の各銘柄ごとの結果を、証券コードの若い順に紹介します。

7201 日産自動車

ポジショニングマップは、左下のエリアに位置しており、3年間の推移を見ると、10社の中での相対的な位置取りは、他社に対して業績が改善しているようには見えません。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H275.0%11.0%6.5%70.2%27.2%7.2%7.6%-302.3
H284.7%13.8%6.3%63.6%26.4%-3.9%11.4%-42.2
H294.0%14.6%4.8%63.8%38.7%2.0%9.0%-76.5

一方で、フリーキャッシュフローが3年連続マイナスとなっていますが、これは開発や製造に対する投資を積極的に実施している可能性があります。

また、売上高営業利益率は、年々悪化しているのですが、ROEが年々上がってきています。

株価は、3年間で平均+8.9%の伸びになっています。

7202 いすゞ

ポジショニングマップは、中央より右側に位置し、3年間の推移を見ると、10社の中での相対的な位置取りに大きな変化はありませんが、安定的な状況にあるといえると思います。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H2710.3%15.2%8.9%106.5%41.5%-36.5%6.9%36.2
H288.1%12.0%7.5%103.8%43.5%1.4%7.7%64.0
H298.4%12.2%8.1%100.1%44.5%6.0%8.5%70.0

キャッシュフローマージンが増加し、フリーキャッシュフローも増加しています。

このことから、安定的な状況にあることで安心感はありますが、増えつつあるキャッシュを今後の成長投資に使えているのかどうか疑問も残ります。
自動車大手10社の中では、比較的収益性が高く、業績も安定的に推移しているという点が評価され、株価的には、3年間で平均+18.5%と二桁の大きな伸びに繋がっているのかもしれません。

7203 トヨタ

ポジショニングマップは、中央の下の方に位置し、3年間の推移を見ると、10社の中での相対的な位置取りに大きな変化はありません。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H276.3%13.8%10.0%59.9%35.3%4.3%15.7%1,278
H284.5%10.6%7.2%56.6%35.9%-2.8%12.4%444.3
H295.2%8.1%8.2%58.4%37.2%6.5%14.3%550.0

安定的な状況にあるということと、ずば抜けたキャッシュフローマージンとフリーキャッシュフローを示しています。

また、平成27年度に比べて、平成28年度、平成29年度にフリーキャッシュフローが大幅に減少しています。

これは、積極的に開発投資や生産投資を行っている可能性があります。
このことが評価され、株価的には、3年間で平均+7.1%の伸びに繋がっているのかもしれません。

7205 日野自動車

ポジショニングマップは、左上のエリアに位置し、収益性が年々悪化傾向にあるように見えます。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H278.6%15.4%5.6%155.9%38.3%3.6%6.4%23.7
H286.0%11.0%4.2%141.2%39.0%-3.5%4.5%-16.8
H296.2%10.6%4.4%141.9%38.8%9.2%4.7%23.7

売上高が平成28年度に減少した影響か、総合力を示すROA、ROEと、収益性を示す売上高経常利益率が低下していますが、平成29年度にROAと経常利益率は持ち直しています。

株価は、上昇となっています。

7211 三菱自動車

ポジショニングマップは、左上のエリアに位置し、平成27年度から平成28年度にかけて収益性が悪くなっていますが、平成29年度にかけては回復傾向にあります。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H279.8%10.9%6.1%158.2%46.8%4.0%8.7%214.9
H280.6%-29.2%0.3%128.4%46.5%-15.9%-2.4%-119.0
H296.7%14.6%4.5%132.4%47.2%15.0%5.5%22.5

V字回復となるのか興味のあるところですが、株価的には、マイナス成長となっています。

7261 マツダ

ポジショニングマップは、左上のエリアに位置し、相対的に見た収益性が悪化傾向にあります。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H278.8%14.7%6.7%133.7%37.4%12.3%7.7%154.7
H285.5%9.4%3.9%127.3%41.2%-5.6%5.0%97.3
H296.3%10.0%4.2%127.3%43.7%8.1%6.0%47.8

一方で、フリーキャッシュフローが減少しており、新たな開発投資、生産投資を行っている可能性があります。

しかしながら、業績的に停滞感があり、それが株価的にマイナス成長となっているのかもしれません。

7267 ホンダ

ポジショニングマップは、左下のエリアに位置しています。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H273.5%5.0%3.4%80.1%37.1%9.6%9.5%515.9
H285.3%8.8%6.0%73.8%38.5%-4.1%6.3%234.5
H295.8%13.9%5.4%79.4%41.0%9.7%6.4%372.6

売上高営業利益率が低い数値となっているのが気になります。昔はもっと営業利益率が高かったように記憶しているのですが、それでも一時よりは改善しているということなのでしょうか。

また、ROA、ROEは年々高くなってきており、特にROEの伸びが著しいです。このあたりが評価されているのか、株価的には平均成長率が+8.9%となっています。

7269 スズキ

ポジショニングマップは、左側のエリアから右側のエリアへと移動してきています。この左側から右側のエリアへ移るタイミングが、投資的には買いのポイントかもしれません。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H277.7%9.6%6.1%117.7%35.4%5.5%9.2%51.7
H289.2%15.4%8.4%101.7%35.9%-0.4%11.6%77.8
H2911.5%17.9%10.0%112.5%38.8%18.5%11.8%103.6

総合力(ROA、ROE)、収益性(売上高営業利益率、キャッシュフローマージン、フリーキャッシュフロー)、安定性(自己資本比率)、成長性(売上高成長率)と、ほぼすべての指標で安定した伸びを示しています。

今後の課題としては、この業績拡大によって得られたキャッシュを如何に生かしていくのか、という点が上げられると思います。更なる成長戦略が描けるのか、注目したいところです。

7270 スバル

ポジショニングマップは、右上のエリアに位置していますが、傾向的には業績のピークを迎え減速傾向か、という判断になるかと思います。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H2722.3%36.9%17.5%124.7%51.8%0.0%19.0%358.6
H2814.3%20.2%12.4%120.4%52.8%2.9%10.4%91.2
H2913.2%14.6%11.1%118.1%53.8%2.4%10.8%215.6

なかなか売上が伸びない中、総合力、収益性、効率性が悪くなりつつあるように思います。この辺りが、株価的にマイナス成長へと繋がっているのかもしれません。

7272 ヤマハ発動機

ポジショニングマップは、左上のエリアから右上のエリアへと移動してきました。

前述のスズキと同様のパターンです。

ROAROE営業

利益率

総資産

回転率

自己資比率売上高

成長率

CF

マージン

フリーCF

10億円

H279.6%12.6%8.0%125.0%37.6%7.2%1.7%-40,0
H287.7%12.3%7.2%114.0%40.5%-7.9%9.5%96.6
H2910.9%17.6%9.0%118.0%44.0%11.1%7.6%73.1

総合力、収益性、安定性で指標が良くなって来ており、この辺りが、株価的に、+16%の評価に繋がっているのかもしれません。

 

自動車大手10社のポジショニング分析から見えてきたことは?

以上、自動車大手10社のポジショニング分析の結果を紹介しましたが、ここから見えてくるものがありました。

スズキやヤマハの事例に見られるように、マップ上の左側のエリアから右側のエリアへと移動しつつある銘柄の株価伸び率が大きくなっています。

また、右側のエリアで安定的な動きとなっているいすゞの株価も二桁の伸びとなりました。

ただし、スバルの事例にあるように、右側のエリアにあっても、時系列的に右から左へと移動しつつある状況は良いとはいえないということです。

 

以上、日経225採用銘柄・自動車セクターの10社を対象に、平成27年度、平成28年度、平成29年度の財務データを元に、因子分析を実行の上、その結果(因子得点)をポジショニングマップ上に示し、銘柄ごとに解説しました。

 

次回は、日経225採用銘柄・建設セクターの9社を対象に分析します。

 

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