今回は、日経225の「通信」セクター8社を対象に、3年間の財務データを元にポジショニング分析を行います。
まず最初に、情報通信市場の動向について確認しておきます。
情報通信市場の動向は?
近年のAIやIoT化の進展によって世界的にデータ流通が増大しています。Ciscoによれば、2017年から2020年にかけて約1.9倍に増加すると予測されており、特に、モバイルデータは同期間に約3倍と、全体の成長率を上回ることが予想されています。
インターネット技術や各種センサー・テクノロジーの進化等を背景に、パソコンやスマートフォンなど従来のインターネット接続端末に加え、家電や自動車、ビルや工場、世界中の様々なモノがインターネットへつながるIoT時代が到来しつつあります。
IoTデバイスの動向を見ると、2017年時点で稼動数が多いのはスマートフォンや通信機器などの「通信」が挙げられます。ただし、この市場は成熟しているため、今後は相対的に低成長が見込まれています。
今後は、コネクティッドカーの普及によりIoT化の進展が見込まれる「自動車・輸送機器」、デジタルヘルスケアの市場が拡大している「医療」、スマート工場やスマートシティが拡大する「産業用途(工場、インフラ、物流)」などの高成長が予測されています。(情報通信白書より引用)
日経225・通信大手6社の3年間のポジショニングの動きでわかることは?
ポジショニングマップ上に示した6社の3年間のポジション変化を見ることができれば、他社との相対的な位置関係と、その位置取りの変化、加えて、その変化が業績に対してどのような意味を持つのか、が明らかとなり、そして、株価の動きとの関係について、自ら判断することが可能となります。
今回分析対象とした通信大手6社とは?
今回対象としたのは、日経225採用銘柄で通信セクターの6社です。
9412 スカパーJSAT HD/ 9432 NTT/ 9433 KDDI/ 9437 NTTドコモ/ 9613 NTTデータ/ 9984 ソフトバンク
各銘柄の特徴は?
9412 スカパーJSAT HD
CSで有料多チャンネル放送「スカパー!」事業と、アジア最大の宇宙・衛星事業の2本柱。
9432 NTT
国内通信ガリバー。地域固定電話網独占、携帯・光回線で高シェア。海外拡大に活路見出す。
9433 KDDI
総合通信大手。携帯・光回線を展開。物販など非通信伸ばしライフデザイン企業への脱皮模索中。
9437 NTTドコモ
携帯電話で国内最大手(シェア4割強)。NTTグループ中核。好財務・非通信事業を拡大中。
9613 NTTデータ
NTT傘下のSI専業最大手。省庁、金融機関に強い。米デルのITサービス会社を16年買収。
9984 ソフトバンク
日米で携帯通信事業を展開。傘下にヤフー、英ARM、10兆円ファンド。持分に中国アリババ。
(以上、Yahooファイナンスの企業情報から引用)
通信大手6社の3年間の業績をマーケティング分析手法を使って分析した結果は?
通信大手6社を分析する指標は8つ(ROA、ROE、売上高営業利益率、総資産回転率、自己資本比率、売上高成長率、キャッシュフローマージン、フリーキャッシュフロー)です。
8つの指標を選んだ理由については、「自動車大手10社の財務データを元にポジショニング分析した結果見えてきたものは?」で説明していますので、そちらを参考にしてください。
そして、今回の分析対象期間は、2015年度、2016年度、2017年度です。
全銘柄が、3月決算となっています。
通信大手6社の3年間のポジショニングの変化は?
通信大手6社の3期分の財務データから8つの指標を算出し、マーケティング分析手法の一つである因子分析を実施。
その因子得点を求め、ポジショニングマップ上に示しました。
◆は平成27年度(2015年度)、■は平成28年度(2016年度)、▲は平成29年度(2017年度)を示しています。
全体の傾向として、横軸方向にばらついていますので、銘柄間の収益力の違いが現れていると思います。
この後、個別に分析・検証します。
各銘柄ごとのポジショニングの変化は?
通信大手6社の各銘柄ごとの分析結果を、証券コードの若い順に紹介します。
9412 スカパーJSAT HD
ポジショニングマップは、右下側エリアから左下側エリアへと移ってきています。このポジショニング分析による法則性のひとつとして、「左側エリアから右側エリアへ移りつつある銘柄の株価は上昇している」というものがあります。
今回この銘柄はその逆の動きをしていますので、収益力が弱くなってきているということに加え、株価的にも下落していることを示唆しています。
実際の株価を見ても、3年間の平均伸び率(CAGR)が-14.6%と下落しています。
年 度 | ROA | ROE | 営業 利益率 | 総資産 回転率 | 自己資本比率 | 売上高 成長率 | CF マージン | フリーCF 10億円 |
’15 | 7.5% | 8.6% | 14.9% | 51.0% | 61.6% | -0.2% | 15.2% | -4.0 |
’16 | 6.9% | 8.3% | 12.7% | 53.7% | 58.6% | 18.4% | 3.6% | -15.9 |
’17 | 4.7% | 5.2% | 10.8% | 40.5% | 60.3% | -24.6% | 15.5% | -4.7 |
指標面では、総合力を示すROEと、収益性を示す売上高営業利益率が、悪化してきており、ポジション変化の法則性を裏付ける結果になっています。
9432 NTT
ポジショニングマップは、左下側エリアから右下側エリアへと移ってきていますが、その動きは僅かなものになっています。
前述のスカパーとは逆の動きで、「左側エリアから右側エリアへ移りつつある銘柄の株価は上昇している」というポジショニング分析の法則から言えば、株価は上昇しているとの判断になるのですが、実際には、+0.5%と僅かな上昇に留まっています。動きそのものが僅かであることがその理由かもしれません。
年 度 | ROA | ROE | 営業 利益率 | 総資産 回転率 | 自己資本比率 | 売上高 成長率 | CF マージン | フリーCF 10億円 |
2015 | 6.3% | 8.4% | 11.7% | 54.9% | 42.0% | 4.0% | 23.5% | 952.1 |
2016 | 7.2% | 8.9% | 13.5% | 53.6% | 42.6% | -1.3% | 25.6% | 828.0 |
2017 | 8.1% | 9.8% | 13.9% | 54.4% | 43.8% | 3.6% | 22.4% | 795.8 |
指標面では、総合力を示すROA、ROEと、収益性を示す売上高営業利益率が、良くなってきています。
9433 KDDI
ポジショニングマップは、全銘柄中、唯一、右上側エリアに位置しています。
この位置取りだけを見ると、収益力が強く、株価も上昇しそうですが、ポジションの動きがほとんどないことから、業績的にも変化がなさそうに思えます。この辺りの力強さが感じられない点が、実際の株価の伸び率がー4.9%と下落している理由かもしれません。
年 度 | ROA | ROE | 営業 利益率 | 総資産 回転率 | 自己資本比率 | 売上高 成長率 | CF マージン | フリーCF 10億円 |
2015 | 13.9% | 15.5% | 18.6% | 75.9% | 56.3% | 4.6% | 19.8% | 216.6 |
2016 | 14.3% | 15.9% | 19.2% | 75.8% | 56.7% | 6.3% | 24.5% | 523.8 |
2017 | 14.5% | 15.6% | 19.1% | 76.7% | 57.4% | 6.2% | 21.1% | 427.6 |
指標面では、総合力を示すROAは若干の上昇となっていますが、収益性を示す売上高営業利益率が頭打ちのような状況のように見えます。
9437 NTTドコモ
ポジショニングマップは、右側エリアに位置し、2015年度から2016年度にかけて収益力が高くなっており、2017年度にかけてもその動きが続いていると見ることができます。
年 度 | ROA | ROE | 営業 利益率 | 総資産 回転率 | 自己資本比率 | 売上高 成長率 | CF マージン | フリーCF 10億円 |
2015 | 10.8% | 10.3% | 17.3% | 62.8% | 73.5% | 3.3% | 26.7% | 833.9 |
2016 | 12.7% | 12.0% | 20.6% | 61.5% | 74.2% | 1.3% | 28.6% | 369.3 |
2017 | 14.2% | 13.3% | 20.4% | 61.6% | 73.3% | 4.0% | 31.7% | 793.2 |
指標面では、総合力を示すROA、ROEが良くなってきており、収益性を示す売上高営業利益率が10%台から20%台へと伸び、キャッシュフローマージンも大きくなってきていますので、ポジショニングの状況と一致した結果となっています。
株価は、3年間の平均伸び率(CAGR)が-+3.2%と上昇しています。
9613 NTTデータ
ポジショニングマップは、左上側エリアに位置し、収益力については殆ど動きが見られません。
年 度 | ROA | ROE | 営業 利益率 | 総資産 回転率 | 自己資本比率 | 売上高 成長率 | CF マージン | フリーCF 10億円 |
2015 | 5.3% | 8.4% | 6.2% | 86.8% | 39.8% | 6.8% | 14.4% | 44.0 |
2016 | 5.0% | 8.5% | 6.8% | 77.4% | 35.8% | 7.3% | 13.8% | -189.8 |
2017 | 5.4% | 7.1% | 5.8% | 94.8% | 37.3% | 22.2% | 11.0% | 24.3 |
指標面では、2017年度に売上高成長率が20%台と大きく伸びているのですが、収益性を示す売上高営業利益率やキャッシュフローマージンなどに、反映されていません。
一方で、効率性を示す総資産回転率は上昇してきています。
株価は、3年間の平均伸び率(CAGR)が-+0.1%とほぼイーブンの状況です。
9984 ソフトバンク
ポジショニングマップは、左下側エリアに位置しています。
年 度 | ROA | ROE | 営業 利益率 | 総資産 回転率 | 自己資本比率 | 売上高 成長率 | CF マージン | フリーCF 10億円 |
2015 | 4.4% | 17.4% | 10.2% | 42.9% | 12.6% | 4.4% | 10.6% | -711.5 |
2016 | 2.9% | 46.0% | 11.5% | 36.1% | 14.6% | 0.2% | 16.9% | -2712.9 |
2017 | 1.2% | 23.7% | 14.2% | 29.4% | 16.6% | 2.9% | 11.9% | -3396.2 |
指標面では、総合力を示すROAが悪化し、フリーキャッシュフローも間ナス幅が大きくなっています。これは、社債発行か借入で資金を調達して、大掛かりな投資を継続していると思われます。
収益性を示す売上高営業利益率は上昇しており、この点で収益性は良くなっていると判断できるのですが、一方で、キャッシュフローマージンやフリーキャッシュフローの数字の影響で、ポジショニングマップの位置取りとしては、左下側エリアとなっていると考えられます。
株価は、3年間の平均伸び率(CAGR)が-+21.7%と全銘柄の中で、一番の上昇率となっています。恐らく大掛かりな投資に対する期待感の表れではないかと推察します。
通信大手6社のポジショニング分析から見えてきたことは?
これまで、自動車セクターのスズキ、ヤマハ発動機、建設セクターの鹿島、大成建設、大和ハウス、小売セクターの丸井グループについでは、マップ上の左側のエリアから右側のエリアへと移動しつつある銘柄の株価伸び率は高い、という、ポジショニング分析における法則性を示していました。
今回は、スカパーについて、マップ上の右側のエリアから左側のエリアへと移動しつつある銘柄の株価は下落する、という、その逆の動きが見られました。
この動きについては、今後も継続して注目していきたいと思っています。
以上、日経225採用銘柄・通信セクターの6社を対象に、2015年尾、2016年度、2017年度の財務データを元に、因子分析を実行の上、その結果(因子得点)をポジショニングマップ上に示し、銘柄ごとに分析・検証しました。
次回は、日経225採用銘柄「医薬品」セクターの9社を対象に分析・検証します。
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